東京理科大学大学院物理学専攻の深澤です。
連絡が遅くなり申し訳ありません。今日のNeuroClubでは私の研究をご紹介します。
よろしくお願いいたします。
アブストラクト
疼痛の客観的定量化は、神経科学および生理学研究、特に治療の開発と評価における疼痛強度の評価において重要な課題である。とりわけ、温度感受性イオンチャネル(TRPV1)が活性化し痛覚として認識され始める閾値温度域では、わずかな刺激強度の違いが顕著な行動変化をもたらすため、この境界での定量的評価が疼痛病態の理解に不可欠である。動物実験では従来、行動解析法が用いられてきたが、これらのアプローチは観察者バイアスや評価者間のばらつきの影響を受けやすい。さらに、あらかじめ定義された評価基準は、実験条件の変動や個体差に柔軟に対応できない可能性がある。
本研究では、計算行動解析に基づくマウスの疼痛強度の高精度かつ客観的な定量化手法の開発を目的とした。近年、機械学習を用いたマウス疼痛行動評価の自動化手法が注目されているが、疼痛刺激の強度に応じた行動変化の定量的評価は依然として十分に確立されていない。さらに、従来の手法では、実験者による物理的拘束や強制的な刺激提示が必要であり、マウスのより自然な行動状態下での疼痛応答を捉えることが困難であった。
これらの課題に対し、本研究では実験者の介入を最小限に抑え、マウスの自発的行動を観察可能な実験機器を新たに設計した。解析手法として姿勢推定DeepLabCut(DLC)と時系列解析手法ROCKETを使用し、TRPV1の活性化閾値である43℃をまたぎつつ、より温度差の小さい42℃と45℃に対する反応行動の識別を試みた。
マウスを床にペルチェ素子が埋め込まれたアクリル箱内に配置し、比較的自由な動きを可能にしながら、異なる温度(42℃, 45℃)で熱刺激を加え、詳細な行動変化を記録した。マウスの行動は、真上と側面に配置した2台のカメラで撮影した。取得した動画はDLCで解析し、マウスの様々な身体部位の座標時系列データを抽出した。これらのデータを時系列解析手法ROCKET\cite{RO}を使用し、訓練データからROCKET特徴量を生成し、印加温度を推定する二値分類器を最適化した。以上の実験により、ROCKET特徴量とridge回帰による分類器において最高F1スコアが0.77の精度で、熱刺激反応行動を区別できることが示された。本手法が一定の識別能力を持つことが確認されたことで、病態モデルマウスにおける疼痛行動の質的変化を定量的に評価する測定ツールとしての基盤が確立された。
この結果に関して、姿勢推定部位の変更や時系列解析ROCKETのパラメータ最適化など、識別精度向上に向けた改善の余地が残されている。さらなる結果の深堀では、機械学習のモデル解釈として、SHAPやFI(Feature Importance)等の手法を試みている。本研究の知見は、観察者バイアスに左右されない客観的で再現性のある疼痛強度評価指標の確立に貢献する。
東京理科大学大学院
理学研究科 物理学専攻
深澤健